金の推移:インクリメンタム報告が示す2030年への強気シナリオ

世界の政治経済秩序が急速に再編される中、金は静かに市場の中心舞台へ返り咲きつつあります。インクリメンタムの2025年年次レポート「In Gold We Trust」が示唆する金の推移は、単なる一時的な価格上昇ではなく、金融システムの本質的な転換を反映しています。同レポートは、2030年末までに金価格が8,900ドルに達する可能性を提示し、現在の強気相場がまだ初期段階にあることを強調しています。

金市場推移の現在地

過去5年間、金の推移は劇的です。世界的な金価格は92%上昇する一方で、米ドルの実質購買力は50%近く低下しました。2025年4月末時点で、金は米ドル建てで通算22回の最高値を更新し、昨年の43回に次ぐペースで新記録を樹立し続けています。

ダウ理論の強気相場3段階モデルに照らせば、金は現在「一般投資家参加段階」にあります。この段階では、メディア報道がますます楽観的になり、投機的な関心と取引量が急増し、新しい金融商品が続々と発売され、アナリストが目標価格を引き上げる典型的な特徴が見られます。2025年第1四半期だけで、金ETFへの流入額は211億ドルに達し、史上2番目に高い水準となりました。

注目すべきは、金は絶対価格での新高値突破だけでなく、相対レベルでもテクニカルブレイクスルーを形成していることです。株式や債券といった伝統的資産との比較においても、金の優位性は確立されつつあります。

金推移を加速させる構造的要因

世界金融秩序の再編

ブレトンウッズ協定から約50年を経た現在、世界は新たな金融秩序へシフトしています。経済学者ゾルタン・ポザール氏の「ブレトンウッズIII」論文が指摘するように、国際システムは金に裏付けられた第1世代から、米国債に裏付けられた第2世代へ、そして現在、金やコモディティに裏付けられた第3世代へと移行しつつあります。

この推移の中で、金は3つの重要な優位性を有しています。まず、金は特定の国や政党に属さない中立的資産であり、多極化する世界においても統合の要素となり得ます。次に、金には信用リスクがなく、各国が国内に保管することで没収リスクを容易に回避できる純粋な資産です。さらに、2024年の1日平均取引量が2,290億ドルを超え、ロンドン貴金属市場協会の調査によれば、金は国債よりも流動性が高い場合さえあります。

央行による大規模な金購入

金の推移を最も直接的に支えているのが、中央銀行の需要です。2009年以降、世界の中央銀行は金市場で一貫して純買い越しを続けており、2022年のロシア外貨準備凍結以降、この傾向は急速に加速しています。ワールド・ゴールド・カウンシルのデータによれば、中央銀行は過去3年間、毎年1,000トンを超える金準備を追加購入し、「ハットトリック」を達成しました。

2025年2月時点で、世界の金準備高は36,252トンに達し、外貨準備全体に占める金の割合は22%となりました。これは1997年以来の最高水準であり、2016年の約9%という最低値から2倍以上に回復しています。ゴールドマン・サックスの推定によれば、中国人民銀行は今後も月間約40トンのペースで金を購入する見通しで、年間購入量は500トン近くに達する可能性があります。

新たな投資環境と金の役割

金融市場再編とドル覇権の動揺

米国の産業空洞化と制御不能な財政赤字が背景にある中、トランプ政権の政策転換は金の推移にさらなる弾みをつけています。年間1兆ドルを超える国債利子支払いは、防衛予算さえも上回る規模に膨張しており、新たな財政赤字削減の試みも限定的です。一方、新たな関税政策により米国の平均関税は30%近くに跳ね上がり、1930年のスムート・ホーリー関税法の時代以来の高い水準となっています。

ドル基軸体制そのものが揺らぎ始める中、金は超国家的な決済資産としての地位を回復しつつあります。ドルの購買力低下と相まって、金の相対的価値は急速に上昇しているのです。

新型ポートフォリオ戦略

従来の株式60%・債券40%配分を前提とした投資戦略は、現在の市場環境に適応できなくなっています。インクリメンタムが提案する新型60/40ポートフォリオは、金を15%組み込み、さらに「パフォーマンスゴールド」として銀や鉱業株に10%を配分するものです。残る35%を株式45%、商品10%、ビットコイン5%で構成するこのモデルは、伝統的安全資産への信頼喪失という時代背景を反映しています。

レポートは安全資産としての金と高成長性を追求するパフォーマンスゴールドを区別する重要性を強調しています。銀、鉱業株、コモディティは、今後数年間で金以上の成長ポテンシャルを秘めているとされています。

インフレリスクと金の防御力

マネーサプライの急速な拡大

1900年以降の米国を例にとれば、人口は4.5倍に増加しましたが、マネーサプライM2は2,333倍に膨張し、一人当たりでは500倍以上に増加しています。金の供給量は恣意的に拡大できないため、この通貨膨張の中で金の相対価値は必然的に上昇します。

G20諸国では、マネーサプライは年平均7.4%増加しており、3年間のマイナス成長の後、再び加速傾向にあります。景気調整局面でも、中央銀行の対応は極めてインフレ的になる傾向が高く、イールドカーブ・コントロール、新たな量的緩和、金融抑圧、MMT、ヘリコプターマネーなど、さらなる通貨拡張措置が講じられる可能性があります。

スタグフレーション環境下での金

歴史的データから、スタグフレーション環境下では金のパフォーマンスは極めて良好です。1970年代のスタグフレーション期間中、金の実質年率複利成長率は32.8%、銀は33.1%に達しました。現在のマクロ経済環境が当時と類似している点を考えると、金への投資配分の重要性はいっそう高まります。

2030年への金価格予測

インクリメンタムの2020年モデルによれば、金価格は2つのシナリオを想定しています。ベースケースでは2030年末までに4,800ドル程度、インフレシナリオでは8,900ドル程度に達する可能性があります。現在の金価格は既に2025年末の中期目標である2,942ドルを上回っており、レポートは今後5年間のインフレ動向によって、2つのシナリオの中間に位置する可能性が高いと予測しています。

「影の金価格」(シャドーゴールド)という概念を用いた分析では、マネタリーベースが完全に金で裏付けられた場合の理論上の金価格を算出しています。米国のM2が100%金で裏付けされるシナリオでは、金価格は82,223ドルに達する必要があります。1914年の連邦準備法で定められた40%のカバー要件を満たすには、現在のM0では8,566ドルの金価格が必要とされています。

ビットコインとの共存

金の推移と並行して、ビットコインも急速に台頭しています。地政学的緊張の高まりを背景に、分散型暗号通貨としてのビットコインの利点は明白です。国家統制からの独立性と国境を越えた取引機能により、ビットコインは従来の通貨に代わる選択肢を提供します。

2025年4月末時点で、採掘済み金の市場価値は約23兆ドルであり、ビットコインの市場価値は約1.9兆ドルで、これは金の市場価値の約8%に相当します。レポートは、ビットコインが2030年末までに金の時価総額の50%に達する可能性があると主張しており、そうなればビットコインの価格は約90万ドルに達することになります。金とビットコインの組み合わせは、リスク調整後の観点からも、個別投資よりも優れた成果をもたらす可能性があるとされています。

短期的リスクと調整局面

長期的な上昇トレンドは確固としているものの、短期的には複数のリスク要因が指摘されています。中央銀行の需要が現在の四半期平均250トンから予想外に減少するシナリオ、投機筋によるポジション削減、地政学的プレミアムの低下、米国経済の予想外の堅調さ、ドル高への急速な反転などが考えられます。

レポートでは、短期的に金価格が2,800ドル程度まで下落する調整が発生する可能性を指摘しています。しかし、このような調整は強気相場の安定化プロセスの一環であり、金の中長期的な上昇トレンドを脅かすものではないと分析されています。投資家は一貫したリスク管理戦略を維持し、市場変動に対応することが重要です。

結論:金の推移は続く

世界の政治経済秩序の再編、政府と中央銀行のインフレ傾向、特にアジアとアラブ地域における金親和的な地域経済の台頭、米国資産からの資本流出、そしてパフォーマンスゴールドの期待超過リターンなど、複数の柱が相互に補強し合う中で、金の推移は避けられない潮流となっています。

現在の金価格上昇は危機への反応であるだけでなく、世界が新たな金融秩序へシフトする前兆でもあります。伝統的な安全資産としての国債への信頼が失われていく中で、金は中立的で負債のない、真の信頼の基盤として機能していくでしょう。おそらく、超国家的な決済資産の形で、政治的権力の道具ではなく、多極化した世界における取引と交換の基盤となることが予想されます。

既存の通貨システムの信頼性がますます低下する時代において、金の推移はこれからも加速することが見込まれています。地政学的・経済的混乱の中で、金は再び確実な安全資産としての地位を確立しつつあるのです。

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